学術出版の来た道
著者:有田 正規
出版社:岩波書店
分類:科学読み物
出版日:2021/10/11
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
研究者にとってはお馴染み(?)の学術出版について紹介した本。表紙に書かれているように、研究者ですらよく知らない(であろうと思われる)内容も含んでおり、一般読者にとっては読みやすさの☆を一つ減らした方がよいかもしれない。これを読むと、改めて近年の学術誌の価格高騰や乱立(ハゲタカジャーナル含む)、ランキング至上主義のといった諸問題の解決の難しさがよくわかる・・・。
図表などを他の論文に再掲載したい場合、自分の著作であっても、譲渡した出版社の許諾が必要になる。(26頁)
ヨーロッパにおいて科学とは、科学者たちが自ら作り、制御するものである。政治とは一線を画しており、だからこそアカデミーは政府に助言できるとされる。これに対して、日本や中国などのアジア諸国では、欧米を模したアカデミーが政府の意向で結成されるという歴史的経緯をもつ。(40頁)
購読型学術誌のコンテンツを、出版して一定期間経ってから(たいていは1年)収載する仕組みに落ち着いた。これをエンバーゴ方式という。(98頁)
個々人の努力で論文をOA化する方針を「グリーンOA」と呼ぶ。(中略)出版社自身によるOA化を「ゴールドOA」と呼ぶ。(99頁)
この方式は「カスケード査読」と呼ばれる。投稿された論文が不採択になると、同じ出版社内の学術誌にたらい回しにして、流れついた先で相応の掲載料を支払う仕組みである。(中略)さらに、伝統学術誌は論文単位でOA化するサービスを始めた。(中略)こうした学術誌は、OA誌と冊子体の中間の意味で「ハイブリッド誌」と呼ばれる。(105頁)
・・・「プランS」という改革案を作り上げた。2021年以降は論文の発表先を即時かつ完全オープンアクセスの学術誌に限るという、大胆な提案である*1。(中略)プランSには、査読後の最終稿(つまり、校閲やレイアウト前の原稿)を再配布可能な形で機関リポジトリに置けるならば適合とみなすという抜け道も作られた。(119~122頁)
*1:しかし実施期限が近づくにつれ、プランSの基準は軟化した。