見えない地下を診る――驚異の物理探査

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著者:公益社団法人物理探査学会

出版社:幻冬舎

分類:地理学・地誌学

出版日:2022/1/28

 

一般読者向けに物理探査について広く浅く書かれた入門書。それぞれの手法を実際に適用するには巻末で紹介されている物理探査に関する手引きやハンドブックを参照する必要があるが、全体像を眺めるにはこれぐらいがちょうどよい分量かもしれない。

 

地震探査】

資源探査が目的の場合は地震波探査、建設や土木の分野の場合は弾性波探査という場合が多い(25頁)

屈折法地震探査

地下数百m程度の比較的浅い範囲(126頁)

折れ線(走時曲線)の最初の部分の傾きの逆数は表層のP波速度になり、屈曲点以降の傾きの逆数は基盤の速度になります(127頁)

反射法地震探査

反射法地震探査の分解能は精度がよくても1m程度(114頁)

均質な基盤岩の内部では明瞭な反射面が得にくく、(反射法地震探査では)活断層の変位量がわからない(116頁)

建設分野ではそれ(地下数kmの深さにある石油貯留層の探査)に比べると浅い深度数百m以浅が対象となり、浅層反射法地震探査と呼ばれる(129頁)

表面波を用いる探査

(表面波の)伝播速度は主として地盤のS波速度構造に依存していて、波長の短い表面波は地下の浅い部分の影響を、波長の長い表面波は地下の深い部分の影響を受けます(132頁)

表面波(レイリー波)の速度はその波長(速度と周波数との比)の三分の一の深さまでのS波速度を反映する(132頁)

微動探査

微動探査は、いわば自然の振動を利用した表面波探査である(134頁)

表面波探査では20m以深の探査は容易ではありませんが、数十mよりも深い所の探査には微動探査が適しています(134頁)

 

【電気探査】

比抵抗法探査

低比抵抗領域は、間隙が多く水がたくさん溜まっている所と考えられますし、そういう所は透水性も高く水が流れやすいといえます。ただし、粘土が含まれて低比抵抗になっている場合は、透水性は低くなります。一方、高比抵抗領域は、水が少なく透水性も低くて水の流れを遮る所と考えることができます。(45頁)

(比抵抗法電気探査や電磁探査は)反射法地震探査が苦手とする基盤岩が露出している地域での調査が可能(116頁)

比抵抗値の範囲は、密度や地震波速度に比べて桁違いに大きい(145頁)

四つの電極を一列に一定間隔で地表面に設置し・・・電極A-B間に電流Iを流し、地面に生じるM-N間の電位差を測定します。(中略)四極法と呼ばれています。(中略)電極間隔を変えることにより、深さ方向の比抵抗分布を求めることができます。(146頁)

 

【電磁探査】

地中を伝わる電磁波はその地層の比抵抗の影響を受けるため、自然に発生した電磁波や人工的に発生させた電磁波を測定することで地下の比抵抗分布を調べることができます(153頁)

 

【地中レーダー(高い周波数の電波を使う方法)】

地中レーダーは、電磁探査に比べるとずっと高い10メガHz以上の周波数の電波を使います。(中略)地中レーダーの場合は、地下の誘電率の違いを捉えています。(中略)このような(=水を多く含む地層や泥炭などの有機質土のように電波の減衰が大きい)場合が想定されるときは、地中レーダーの適用をよく検討しなければなりません。(164頁)

地下浅部の地下構造を高い分解能で探査できる(165頁)

 

リモートセンシング(光を使う方法)】

人工衛星を用いて地表面から反射・放射される光の周波数帯域の電磁波(可視・近赤外域/熱赤外域)を観測することにより、広域を探査する(166頁)

(自然の電磁波を受ける)受動型リモートセンシングでは、可視・近赤外熱赤外域と呼ばれる高周波帯域を利用します。(中略)自らが電磁波を放出して地面からの反射を観測する能動型リモートセンシングでは、大気中の雲などを通過する三ギガHz程度のマイクロ波が使われます。(167頁)

 

物価とは何か

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著者:渡辺 努

出版社:講談社

分類:投資・金融・会社経営

出版日:2022/1/13

 

書名の通り、「物価」について非常にわかりやすく説明されている。我々の普段の生活とも大きく関係しているにもかかわらず、「物価とは何か?」と改めて問われると口籠ってしまう人が多いのではないだろうか。(特に最前線の)理論的な部分は我々一般人には完全に理解するのは難しいが、「物価」について知りたい人にとって本書は最適な入門書ではないかと思う。

 

インフレ率に関する人々の予想が変化すると、それと同じだけ金利も変化するということがわかりました。この現象は「フィッシャー効果」と呼ばれています。(92~93頁)

人々の流動性(=貨幣)に対する需要は、金利が上がると低下すると述べられています。この考え方は「流動性選好説」とよばれています。(95頁)

人々の予想するインフレ率が中央銀行の望む水準よりも高い場合は、金利を大幅に(人々が予想するインフレ率を超える幅で)上げることでその予想に対抗するーこれは中央銀行の政策運営の鉄則です。(中略)この鉄則は「テイラー原理」とよばれています。(108頁)

フィリップス曲線は失業率とインフレ率の間のトレードオフ関係を描写するものであり、しかもトレードオフの度合いをカーブの傾きとして定量的に把握できます。(124頁)

景気の悪化にともなう失業率の上昇とインフレ率の上昇の同時進行は、スタグフレーションと呼ばれました(不況を表すスタグネーションとインフレーションの合成語)。(125頁)

貨幣量の増加による失業率の低下という好ましい効果は一過性のもので、最終的には消えてしまい、インフレ率の上昇という、経済への悪影響だけが残るのです。(135頁)

物価下落自体はさほど大きな問題ではありません。むしろ、デフレが原因で企業が価格支配力*1を喪失し、それが米国経済の活力を削ぐことこそが重大な問題なのです。(287頁)

日本の企業は(中略)消費者の怒りを恐れるあまり、原価の上昇に対して、世代内での表面価格の引き上げというもっとも標準的な対応を諦め、小型化によるステルス値上げと、世代交代時の値戻しという、変則的な方向に向かったとみることができます。(301頁)

 

*1:ビジネスの現場では価格支配力(Pricing power)はきわめて重要な評価基準です。伝説的な投資家ウォーレン・バフェットは、「その企業が投資に値するよい企業かそうでないか見抜くカギは、価格支配力の有無」と言い切っています。さらに彼は、価格を上げてもライバルに顧客が流れてしまうことがないところまで行ければ、ビジネスとして大成功だ、10%の価格引き上げのために神に祈らなければならないとすればビジネスとして失敗だ、とも述べています。

思考実験 科学が生まれるとき

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著者:榛葉 豊

出版社:講談社

分類:科学読み物

出版日:2022/2/17

 

取り扱っている内容そのものは興味深いのだが、個人的にはしっくりこなかったというのが正直な印象。著者の主張が今一つ理解できず、モヤモヤとした読後感だった。バリバリの研究者が書いたならもっと掘り下げた内容に、またサイエンスライターが書いたならもっと一般向けな(読みやすい)内容になったのではと思わざるを得ない。そういう意味では、かなり読み手を限定する一冊なのかもしれない。

ディープラーニングを支える技術 —「正解」を導くメカニズム

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著者:岡野原 大輔

出版社:技術評論社

分類:情報学・情報科学人工知能

出版日:2022/1/8

 

最近(でもないか)巷で話題のディープラーニングに関する第一人者による解説本。イラストも交えながら、一般人にはブラックボックスで難解なディープラーニングの理屈がわかりやすい説明されており、Ama〇onの書評でも総じて評価が高いのが納得できる。目的関数、損失関数(誤差関数)、閾値関数の違いや、(非線形な)活性化関数を挟む理由などがよく理解できた。著者によると、活性化関数の一つであるReLUは、正規化層とスキップ接続とあわせて、ディープラーニングの「学習」における三大発明らしい。本書(特に4章以降)を読むと、今もディープラーニングの手法は発展し続けていることがよくわかるが、例えば種々の関数の設定には(もちろん理屈はあるものの)かなり任意性を伴うので、確定論的(?)な物理モデリングが好きな人にはどこかモヤモヤが残るのかもしれない。

時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙

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著者:ブライアン・グリーン(著)、青木 薫(翻訳)

出版社:講談社

分類:物理学

出版日:2021/12/3

 

超ひも理論を一般向けに解説した世界的ベストセラー「エレガントな宇宙」等で知られるブライアン・グリーンの新書。著者の専門である宇宙論に加えて、生命誕生から意識の謎までを取り扱っており、Am〇zonのレビューでも非常に評価が高い。そのためかなり期待が大きかったが、個人的にはやや冗長で、特に著者の専門から外れる第4章~第8章については、前後の宇宙論との関連性がいまひとつわからなかった。第2章と第3章のエントロピック・ツーステップの話は面白かったのだが・・・。個人的に世界的ベストセラーとはどうも馬が合わないことがあるようで、そういえばユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」も退屈で途中で投げ出した記憶がある。

日本半導体 復権への道

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著者:牧本 次生

出版社:筑摩書房

分類:電気・電子

出版日:2021/11/10

 

1か月前に読んだ「2030 半導体地政学 戦略物資を支配するのは誰か」に続き、半導体本2冊目。この本の著者は日立の技術畑の出身ということもあり、少し異なる視点から今後の半導体産業の行く末について書かれている。著者によると半導体の川上産業ではまだ日本の強みがあるものの、より規模の大きい川下産業ではパッとしないとのこと。著者の言うロボティクス(ロボット向け半導体)の分野でこれから日本がどの程度飛躍できるか不透明だが、やはり官民挙げて本気で取り組む必要はあるのだろう。

 

それにしても第7章(わが人生のシリコン・サイクル)の日立・K社長との確執(二段階の降格→ソニーへ)の話は、いかにも日本的らしく読んでいて辟易した。K社長のことは詳しく存じ上げないが、みみっちいというかせこい(こすい)というか、このような人がトップでは・・・と思わざるを得なかった。

力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―

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著者:有賀 暢迪

出版社:名古屋大学出版会

分類:力学、物理学

出版日:2018/10/10

 

今さら古典力学?と思っている人ほど読むべきかもしれない。内容的には「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ(山本義隆著 )」と似通ってはいるものの、本書は数式がほとんど顔を出さないうえに、理科系の書籍としては珍しく縦書きである。このあたりは著者が文学で博士号を取得していることを考えると納得できるが、決して文系でも読みやすいという意味ではないので念のため。本書を読むと、現在の古典力学(特に力の概念)の形成において、オイラーがいかに重要な貢献をしたかが改めてよくわかる。また、動力学と静力学の統合(上記の山本の図書でも述べられているように、これはダランベールの原理として誤解されることが多い)において、ラグランジュの貢献が顕著なのは言うまでもないが、アイデアそのものはかなりオイラーに依っていることが本書から理解できる。

 

活力と死力の対置が却下され、慣性と力が区別されて、力は物体から切り離された。これがオイラーの到達地点であった。(173頁)

ベルヌーイらがおそらくは意図せずして進めた運動の科学と釣りあいの科学の統合を、自覚的に実行し、新しい「力学」に仕立てた業績は、やはりオイラーのものであった。(174頁)

ダランベールの考えは次のようなものであった。相互作用が起こる前の各物体の運動(A)を、相互作用が起こった後の各物体の実際の運動(B)と、もう一つ別の運動(C)とに分解しよう(記号的に書けば、A=B+C)。そうすると、この後者の運動(C)は、系全体として平衡状態にある(すべてを合成するとゼロになる)。