読む・打つ・書く:読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々
著者:三中 信宏
出版社:東京大学出版会
分類:科学読み物、ノンフィクション
出版日:2021/6/19
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
タイトルの「読む・打つ・書く」は、それぞれ「読書・書評・執筆」のことを指す。基本的には、理系の本を対象にしてどのように「読む・打つ・書く」べきかが書かれているが、理系研究者以外の人が読んでも参考になる内容だと思う。特に文系の人が読むと新しい発見がたくさんあるのでは?と思うが、本書でも少し触れられているようにあまり文系・理系を切り分けるのは良くないのかも・・・。
個人的に面白かったのは「打つ」すなわち「書評」の部分。「書評」は基本的には自分のためというのが著者の主張で、数多ある「書評」を解釈する際に確率分布を持ち出すのは(生物)統計学を専門にする著者ならでは。「書評」の平均値だけでなく、ばらつき(分散や標準偏差)を考慮して外れ値(褒め過ぎや貶し過ぎなもの)を除外するというのは興味深い。
「書く」に関しては個人的に本の「執筆」はしないので参考程度に読んだが、それでも「執筆」というのが大変な作業である反面、特に「執筆」する本人にとって非常に重要な意味を持つということが伝わってきた。著者曰く、学術論文の執筆は微分型であるのに対し、本の執筆は積分型の作業とのこと。時間ができたら「書く」というのは「書かない」言い訳に過ぎないというのは耳が痛い・・・。
センサ工学の基礎(第3版)
著者:山﨑 弘郎
出版社:オーム社
分類:電子工学
出版日:2019/12/14
読みやすさ:☆☆★(7章を除き読みやすい)
色々なセンサについて網羅的に(広く浅く?)説明した入門書です。特に第4章の力・圧力のセンサや、第5章の長さ・速度センサは比較的馴染みがあり、全体的に読みやすい印象です。ただ、7章の固体センサデバイス・半導体センサについては、この領域の知識があまりないため、結局何を言いたいのかが理解できない箇所が部分的にありました。このあたりは他の入門書で補ったうえで、再度トライしたいと思います。
センサの一般論として、「入力側、出力側のそれぞれに示強変量と示容変量が対の形で存在」し、「両者の積がエネルギー、あるいはエネルギーの時間変化率であるパワーとなる」こと、「信号に使用されない変量の存在は変換の不確かさの原因となる」ことは新しい発見でした。
第4章 力・圧力のセンサ
4.1 力・トルクセンサ
力の計測は、弾性体に力を加えたときの弾性変形にもとづく弾性力と加えた力とを平衡させて、変形による変位を計測して求める。
変位を電気信号に変換するためには、まず変位をインピーダンスの変化に変換し、そのインピーダンスの変化を利用して、電圧、電流などの出力信号とする。
4.2 抵抗変換型ひずみセンサ
4.2.1 金属抵抗ひずみセンサ
ひずみ(ΔL/L)と抵抗の変化率(ΔR/R)との比はセンサ固有の感度で、ゲージファクタという。
4.2.2 半導体抵抗ひずみセンサ
半導体抵抗ひずみセンサは金属抵抗線の代わりにシリコン半導体の抵抗を利用したもので、金属に比べて感度が高いのが特徴である。
4.3 容量型変位センサ
4.4 誘導型変位センサ
誘導型変位センサは強磁性体の鉄心(コア)にコイルを巻いた構造で、磁路に可変の隙間がある。(中略)隙間dの変化がインダクタンスLの変化から求められる。
4.5 加速度センサ・振動センサ
外力の振動角周波数がサイズモ系の固有振動周波数より大幅に高い場合(中略)慣性質量mが不動点となり、mのフレームに対する相対変位が外部から加えられた振動の変位を示す。(中略)したがって、振動センサとして使用できる。
外力の振動角周波数がサイズモ系の固有角周波数より大幅に低い場合(中略)x*5は外力による振動の加速度に比例する。サイズモ系は加速度センサとして使用できる。
7.1 半導体物性の基礎
価電子は共有結合に束縛されているが、熱や光により励起されると結晶中を動き回ることのできる自由電子を生じ、それが電気伝導の役割を果たす。
不純物から供給される電子により電気伝導が支配される半導体をn型半導体、電子を与えるⅤ族の不純物をドナー(donor)と呼ぶ。
不純物から供給される正孔によって電気伝導が支配される場合をp型半導体といい、Ⅲ属の不純物をアクセプタ(acceptor)と呼ぶ。
第8章 温度計測と温度センサ
8.2 熱電温度計とセンサ
金属AとBからなる閉回路を1か所で切り開くと、熱起電力が切り開いた回路の両端に生じる。熱起電力は2接点の温度U1、U2によって定まる。(中略)これが熱電対(thermo couple)と呼ばれる温度センサの基本原理である。
統計思考の世界~曼荼羅で読み解くデータ解析の基礎
著者:三中 信宏
出版社:技術評論社
分類:確率・統計
出版日:2018/5/18
読みやすさ:☆☆★(読みやすい)
著者の手による統計曼荼羅がなかなか面白い。パラメトリック統計学、ノンパラメトリック統計学、計算機統計学の関係性がわかりやすくまとめられており、非常に参考になる。ただ、パラメトリック統計学に限っても、Leemis and McQueston (2008)に示されるような確率分布の一覧(曼荼羅)をすべて習得するのはかなり大変そう・・・(実益も少ない?)。最近(?)流行りの計算機統計学に関しては、天下り的に多用するのは危険とのことで、これについては確かに納得です。
データの“真ん中”を示す基準値として中央値を選んだときは偏差絶対値和がばらつきの集計値として適していますが、その基準値が平均値であるならば平方和の方が適していることになります。
推測統計学とは観察者の目の前にあるデータの背後に広がる仮想的な母集団に関する推測を行うための方法論です。有限個の標本(データ)から母集団の”ばらつき”に関する推定をしようというのがここでの推測統計学のゴールになります。一方、記述統計学は目の前の10個の数値データの集約をするだけで、背後の母集団に関する推論は眼中にありません。
データサイズnの標本から母分散を普遍性をもって推定するためには、平方和をnではなく(n-1)で割る必要があります。
たまたま無作為抽出されたデータに対する当てはまりがいくらよくても、ありえたかもしれない他のデータに対してそのモデルがよく当てはまるかどうかはわかりません。この2つの問題を同時に解決する決定打として提唱されたのが赤池弘次の「赤池情報量基準(AIC:Akaike Information Criterion)」です。
尤度は実際に得られたデータへのモデルの当てはまりのよさを評価する基準です。これに対して、AICは母集団から無作為抽出されたときのデータに伴うばらつきを考慮して尤度の期待値を求めようとします。
あるモデルの尤度の期待値は「最大対数尤度-パラメーター数」というきわめて単純な尺度によって表現されます。
第12講 コンピューター統計学:データに自らを語らせる
私たちが慣れ親しんできたもとの母集団からのサンプリングに代わる方法として登場したのが、無作為標本からのリサンプリングという新たな考え方です。
古典力学の形成~ニュートンからラグランジュへ~
著者:山本 義隆
出版社:日本評論社
分類:力学、物理学
出版日:1997/5/1
読みやすさ:☆★★(やや読みにくい)
本書は、Newtonの『プリンキピア』からLagrangeの『解析力学』にいたるまでの、力学理論の形成と発展の過程を歴史的に記述したものです。大学等で使う普通の教科書には、「Newton力学」が「Newtonの力学」とイコールのように書かれていますが、本書を読むと両者が異なることが理解できます。Newtonは当然ですが、いかにLeonhard EulerやJoseph-Louis Lagrangeが偉大であったかよくわかる一冊です。
また、普通の教科書では誤って説明されることの多いダランベールの原理(d'Alembert's principle)についても、詳しく述べられており参考になります。このあたり、『基礎物理学1 物理学序論としての力学(藤原邦男著、東京大学出版会)』にも、以下の記述があります。
今日の力学の教科書の中には(11.31)*1のことをダランベールの原理と呼んでいるものが少なくない.だがすでにのべたように,動力学を静力学に帰着させるアイデアはラグランジュのものであって,ダランベールの寄与はあくまで,束縛力を考慮する必要がないことを指摘した点にある.したがって(11.31)に彼の名を冠するのは奇妙なことといわなければならない.
確かに、慣性力を移項することで動力学を静力学に帰着させるのを同原理と呼ぶのは、Lagrangeにもd'Alembertにも失礼ですね。ちなみに、古典的な名著である『物理学概説(小谷正雄編、裳華房)』や『一般力学(山内恭彦著、岩波書店)』でも、残念ながらダランベールの原理が誤って説明されています。
なお、読みやすさを☆一つとしたのは、説明がわかりにくいというより、すべての数式を厳密に追うのに(かなり)骨が折れるためです。
*1:慣性力を移項した力のつり合い式のこと
改訂新版 ベクトル解析からの幾何学入門
著者:千葉逸人
出版社:現代数学社
分類:微積分・解析、代数・幾何
出版日:2017/4/25
読みやすさ:☆☆★(読みやすい)
タイトルのとおり、「ベクトル解析」からの「微分幾何」の入門書です。曲線論(曲率、捩率、フレネ・セレの公式など)から曲面論(平均曲率、ガウス曲率など)、そしてガウス・ボネの定理へ向かう流れが、ベクトル解析とともに説明されています。
数学書~愛すべき名著~によると、「曲面のガウス曲率は第2基本形式に依存しない」というガウスの”驚異の”定理の話題を含め、「微分幾何の教科書として基本的なことはしっかりおさえつつ、非常にドラマチックな構成になっている」との書評です。
11章の位相幾何の内容は、まだ完全に理解するには至っていませんが、やはりオイラー(この本では多面体定理が紹介されています)やガウスの発想や功績の凄さがよくわかります。
イラストで学ぶ ロボット工学
著者:木野 仁(著)、谷口 忠大(監修)
出版社:講談社
分類:メカトロ・ロボット工学、コンピュータ・IT(本)
出版日:2017/11/22
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
家庭用ロボット(ホイールダック2号@ホーム)にマニピュレータ(ロボットアーム)の制御を実装する、というストーリーで説明が進む。本のタイトル通りイラストが多く使われており、扱われている内容も広く浅くといった感じで読みやすい。
第2章:基本的な制御(並進系)
P制御のPは英語のproportionに由来し、比例を意味する。そこで、P制御のことを比例制御ともいう。P制御では力fを次式で与える。
f = Kp (xd - x(t))
(中略)このように、比例定数Kpの値を調整することで仮想的なバネの強さを変え、結果としてホイールダック2号の運動特性を変化させることが可能となる。P制御において、この調整可能な比例定数Kpのことを比例ゲインと呼ぶ。
PD制御はP制御に仮想的なダンパ(減衰器)という要素を加えたものである。(中略)
f = Kp (xd - x(t)) - Kv v(t)
(中略)このKvを速度ゲインや微分ゲインと呼び、速度に比例したブレーキ力の大きさを表す係数である。速度は距離の時間微分であり、英語で微分のことをderivationということから、比例・微分制御、すなわちPD制御と呼ぶのである。
第7章:ロボット用センサ
7.2 角度センサ
ポテンショメータは電気抵抗をもつ直流回路を利用した角度センサである。(中略)ポテンショメータの一般的な特徴として、「構造が簡単」「安価」などの長所が存在するが、点Bが電気抵抗線と物理的に接触して移動するため、接点が摩耗して破損しやすく「寿命が短い」ことや、周囲の電磁波の影響などから電圧計測の際に「ノイズが生じやすい」などの短所がある。
7.3 各速度センサ
直流モータの2つの特性、「磁界中で導線に電流を与えて力を発生させる」ことと、逆に、「磁界中に導線を運動させて、電圧を発生させる」こととは、表裏一体の性質であるといえる。(中略)このように、直流モータは単にアクチュエータとしての機能だけでなく、発電機としての機能を併せ持つ。
7.4 力センサ
力センサに加えられた力により、歪ゲージ内部の電気抵抗値が比例で変化することがわかる。(中略)しかし、電気抵抗はコンピュータなどに値をそのまま取り込むことができない。そこで、式(7.10)*1の抵抗値変化を電圧として読み取る方法を考えよう。ここで登場するのがホイートストンブリッジ回路である。(中略)この原理を使って、歪ゲージの抵抗値の変化を電圧として読み取ることを考える。