2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か

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著者:太田 泰彦

出版社:日本経済新聞出版

分類:電気・電子

出版日:2021/11/20

 

半導体をめぐる世界の動向がわかりやすくまとめられている。テレビのニュースではTSMC(台湾積体電路製造)熊本工場の建設ぐらいしか話題に上らないが、各国および各企業・メーカーがこれほどまでに熾烈な駆け引きを行っているのは、ある意味でフィクションよりも面白いかもしれない(と同時に半導体地政学的パワーに驚かされる・・・)。TSMC東京大学の共同研究の話など日本に関する話題もあり、1980年代と比べて大きく凋落してしまった日本の半導体産業が、今後どうなっていくのか非常に気になるところである。なお、半導体の理論的側面を知るには、当然ながら他の図書を読む必要がある。

 

絵でわかる地震の科学

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著者:井出 哲

出版社:講談社

分類:地球科学

出版日:2017/2/25

 

P波の変位は、震源で生じる破壊すべり、もしくはそれに対応する2つのモーメント(地震モーメント)の時間的な増加速度(モーメントレート)に比例します。(中略)P波が到着してから変位が0になるまで、観測点において変位を時間積分すると、地震の大きさを表す最も基本的な量のひとつ、地震モーメントの総量を計算することができます。(52~53頁)

海嶺で起こる地震の特徴は、小さい、浅い、正断層の3つです。(中略)トランスフォーム断層*1地震にはさらに、浅い、長いという特徴があります。(中略)沈み込み帯の地震の特徴は巨大、深い、逆断層です。(中略)アウターライズでは、しばしば浅い正断層地震が起こります。(61~68頁)

破壊伝播速度、すべり速度、ひずみ変化量などはすべて、地震の破壊すべりに関するスケール不変量です。(中略)地震の破壊すべりは空間的に相似(L∽W∽D)なだけでなく、時間的にも相似(L∽T)なのです。時間・空間的に相似性がなりたつとき、地震波エネルギーは地震モーメントに比例し、この比がもうひとつのスケール不変量となります。(101~103頁)

プレート境界のいちばん浅い部分で地震が起こると、破壊がゆっくり進行し、地震波のわりに大きな津波が引き起こされる(106頁)

微動からSSE*2までのすべての現象をまとめてゆっくり地震またはスロー地震と呼ぶことがあります。(中略)ふつうの地震の場合、地震モーメントは継続時間の3乗で変化しますが、ゆっくり地震地震モーメントは継続時間(の1乗)に比例するのです。(中略)ふつうの地震はこれまで説明してきたように、弾性体の中の破壊すべりであり、弾性波動方程式で説明できる現象です。それに対して、ゆっくり地震はむしろ、すべりに伴う力やエネルギーが空間的に拡散していく現象で、拡散方程式で説明できると考えられます。(113頁)

*1:海嶺をつなぐ横ずれ断層

*2:スロースリップイベント

緒方竹虎と日本のインテリジェンス

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著者:江崎 道朗

出版社:PHP研究所

分類:昭和・平成、ノンフィクション

出版日:2021/7/16

 

「嘘だらけの池田勇人(倉山満 著)」でも少し出てきた緒方竹虎に関する本。昭和史は正直あまり詳しくなく、緒方竹虎についてもほとんど知識がなかったので、色々と勉強になった。ただ、あくまで緒方本という印象なので、インテリジェンスについて深く知るにはもっと適当な本があるのだろう。いずれにせよ、個人的に一番印象に残ったのは、本書の後半で書かれている緒方と重光葵がうまくいかなかったというエピソード。有能なゆえに反発しあうといったところだろうか・・・。

英語論文ライティング教本 ―正確・明確・簡潔に書く技法―

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著者:中山 裕木子

出版社:講談社

分類:英語よみもの

出版日:2018/3/2

 

400ページを超える分厚さなので、1回読んですべてを理解するのは難しいのかもしれない。特に実践するとなると、それなりの経験が必要なように思う。ただ、書かれている内容は非常に有益なので、ライティングの都度に参考にしたい本には違いない。3つのC(Correct, Clear, Concise)のうち、Collins COBUILDによるconciseの定義(以下)は確かになるほどだった。

Something that is concise says everything that is necessary without using any unnecessary words.(簡潔とは、不要な語を1つも使わずに、必要なことすべてを表すこと。)

 

すばらしい新世界〔新訳版〕

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著者:オルダス・ハクスリー(著)、大森望(翻訳)

出版社:早川書房

分類:英米文学

出版日:2017/1/7

 

ジョージ・オーウェルの「1984年」と並び、ディストピア小説の不朽の名作。舞台は西暦2540年のロンドンで、すべての人は(培養されて)生まれる前からランク分け(アルファ、ベータなど)されており、いわゆる「皆が幸せな痛みのない理想郷」の世界。ディストピア小説ながら、全体的な印象はそれほど暗くない。ただ、結末は当然ながらハッピーエンドではなく、主な登場人物のバーナード(アルファだけど冴えない男)は反逆(?)に加担したため、友人ヘルムホルツとともに島流しに(その後どうなったかは不明)。一方、バーナードが保護区からロンドンに連れてきた野蛮人ジョンは、互いに惹かれあったレーニナ(ベータでモテモテの美女)を殺してしまう。そして自らも命を絶つ(描写が抽象的なのでわかりにくいのですが・・・)。清涼な読後感を期待する人には不向きだが、社会の在り方など色々考えさせられる小説。

学術出版の来た道

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著者:有田 正規

出版社:岩波書店

分類:科学読み物

出版日:2021/10/11

読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)

 

研究者にとってはお馴染み(?)の学術出版について紹介した本。表紙に書かれているように、研究者ですらよく知らない(であろうと思われる)内容も含んでおり、一般読者にとっては読みやすさの☆を一つ減らした方がよいかもしれない。これを読むと、改めて近年の学術誌の価格高騰や乱立(ハゲタカジャーナル含む)、ランキング至上主義のといった諸問題の解決の難しさがよくわかる・・・。

 

図表などを他の論文に再掲載したい場合、自分の著作であっても、譲渡した出版社の許諾が必要になる。(26頁)

ヨーロッパにおいて科学とは、科学者たちが自ら作り、制御するものである。政治とは一線を画しており、だからこそアカデミーは政府に助言できるとされる。これに対して、日本や中国などのアジア諸国では、欧米を模したアカデミーが政府の意向で結成されるという歴史的経緯をもつ。(40頁)

購読型学術誌のコンテンツを、出版して一定期間経ってから(たいていは1年)収載する仕組みに落ち着いた。これをエンバーゴ方式という。(98頁)

個々人の努力で論文をOA化する方針を「グリーンOA」と呼ぶ。(中略)出版社自身によるOA化を「ゴールドOA」と呼ぶ。(99頁)

この方式は「カスケード査読」と呼ばれる。投稿された論文が不採択になると、同じ出版社内の学術誌にたらい回しにして、流れついた先で相応の掲載料を支払う仕組みである。(中略)さらに、伝統学術誌は論文単位でOA化するサービスを始めた。(中略)こうした学術誌は、OA誌と冊子体の中間の意味で「ハイブリッド誌」と呼ばれる。(105頁)

・・・「プランS」という改革案を作り上げた。2021年以降は論文の発表先を即時かつ完全オープンアクセスの学術誌に限るという、大胆な提案である*1。(中略)プランSには、査読後の最終稿(つまり、校閲やレイアウト前の原稿)を再配布可能な形で機関リポジトリに置けるならば適合とみなすという抜け道も作られた。(119~122頁)

 

*1:しかし実施期限が近づくにつれ、プランSの基準は軟化した。

ウクライナ人だから気づいた 日本の危機

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著者:グレンコ・アンドリー

出版社:扶桑社

分類:国際政治情勢

出版日:2019/6/19

読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)

 

ウクライナキエフ生まれの国際政治学者による、平和ボケした日本人への警鐘といった内容。日本から見るとウクライナは遠い国のように思われるが、ある意味では非常に似通った政治・外交状況にあることがわかる。それにしても、ロシア(個々のロシア人という意味ではないので念のため)を筆頭に共産・社会主義国と付き合っていくのはつくづく難しいのだと改めて認識・・・。