知らないと損する年金の真実
著者:大江 英樹
出版社:ワニブックス
分類:年金・保険
出版日:2021/10/8
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
著者が「はじめに」で「年金版ファクトフルネス」と述べている通り、一般的に難解でわかりづらい年金についてわかりやすく説明した良書。年金は破綻する、若い人ほど損をする、といったマスコミでもよく報道される誤解に対して、客観的なデータを示すことで反論しており、非常に勉強になった。神輿型→騎馬型→肩車型と社会構造が変化しているのだから年金システムは破綻する!というのはまさに勘違いの典型。小難しく聞こえるマクロ経済スライドも、やっていることの考え方は至ってシンプル(当然、計算式は難しいはずだが・・・)なのがよく理解できた。
嘘だらけの池田勇人
著者:倉山 満
出版社:扶桑社
分類:昭和・平成、ノンフィクション
出版日:2021/9/29
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
リアルタイムで池田勇人の時代を知らず「池田勇人=所得倍増計画」ぐらいの認識しかなかったので、初めて耳(目?)にすることが多く勉強になった。サクサク読めるので、池田総理に至るまでの政党・政治を流れをざっくりと振り返るのにもちょうどよい。吉田茂と田中角栄は半ば神格化されているのに、池田勇人についてはほとんど顧みられることがないというのは、改めて奇妙なことだと思う。あと、池田の跡を継いで総理になった佐藤栄作(非核三原則)については、中国の台頭を許した今の時代からみると確かに評価はできないのかも・・・。
通訳者たちの見た戦後史 月面着陸から大学入試まで
著者:鳥飼 玖美子
出版社:新潮社
分類:通訳・翻訳
出版日:2021/5/28
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
著者自身とその先達のエピソードに焦点を当てた、通訳者に関するエッセイという印象。読みやすさに反して、扱っている内容は決して軽いものではない。著者の言うように、コミュニケーション一辺倒で文法軽視の風潮は、第二言語の習得という意味では大いに問題であろう。著者は早期英語教育にも警鐘を鳴らしており、大いに共感するところである(確か、小さな巨人と呼ばれた緒方貞子さんも同様のことを言われていたはず)。日本人と比べて欧米人は年齢を気にしない(年齢にかかわらずファーストネームで呼び合う)など、言語はいわゆるコンテクストと表裏一体。日本語を第一言語として位置づける限り(英語を第一言語にスイッチするのであれば別だが)、日本的な土台の上に英語という言語を構築するわけで、幼少期のうちに両者を変に混在させるのはやはり危険だろう。
絵を見る技術 名画の構造を読み解く
著者:秋田麻早子
出版社:朝日出版社
分類:西洋画
出版日:2019/5/2
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
名画と呼ばれる絵をどのように見ればよいかについて、美術史研究家が素人向けに解説した本。絵の構図や色の配置などについて(かなり?)理屈的に説明されており、どちらかと言うと客観性にこだわる理系の人向けなのかもしれない。逆に直感で絵を見る人(文系という意味ではないので念のため)には、著者の説明はやや理屈っぽく感じられ、受け入れ難い部分があるのかも・・・。個人的には理系の人間なのでこういう名画の解釈は嫌いではなく、有名な画家が(意外にも?)精緻な計算を行って絵を描いていたのかと空想するのもなかなかに面白い。まぁ、精緻な構図は(天才的な感性の持ち主が)直感で描いた結果の偶然の産物という可能性も否定できないが・・・。
科学はなぜわかりにくいのか - 現代科学の方法論を理解する
著者:吉田 伸夫
出版社:技術評論社
分類:科学読み物
出版日:2018/4/14
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
東大理学部物理学科(専攻は素粒子論、特に量子色力学)出身のサイエンスライターによる、科学の方法論に関する著書。同じ著者による量子論や素粒子論のように、ある分野に特化した自然科学系の専門書・一般書は数多く出版されているが、この本のように科学そのものを解説する内容はなかなか珍しいのではと思う。一般の読者にも読みやすく書かれている一方で、理系の研究者にとっても有益な内容が含まれており、改めて科学の在り方を見直すのには格好の図書と言えそうだ。
科学者にとって最大の屈辱は、厳しく反論されることではなく、受容されずに黙殺されることである。(45頁)
学説を信じるかどうかにかかわらず、「仮に、その学説が正しいとすると・・・」と演繹的に帰結を導き出すことが、自然科学の特徴である。(53頁)
予測される結果が・・・合致しなかったからと言って、提唱した科学者が非難されることは決してない。「このモデルは妥当でない」と確認することも、科学を推進するための研究の一部だからである。(55頁)
ある学説から演繹的に予測が導かれ、実験・観測で得られたデータとの比較によってその予測が否定された場合は、元の学説自体が反証されたことになる。言い換えれば、データと比較できる予測を演繹的に導ける学説は、「反証可能」なのである。(61頁)
本来の適用分野を越えて拡大解釈する場合、学説がデータと合致するかどうかのチェックが疎かにされがちであり、往々にして非科学的である。総合学説の構築と適用範囲の拡張は、全く異なったものであることを、きちんと認識しなければならない。(102頁)
科学的な研究では、異端の説は無視し権威者の主張をそのまま受け入れるーというのではなく、さまざまな新説を多くの科学者が検討した上で、信頼できる定説を練り上げるという民主的な方法論が採用されます。(144頁)
「科学者が論文を書きたくなるような事例が選択される」というのも、一種の選択バイアスである。(193頁)
LIFE3.0-人工知能時代に人間であるということ
著者:マックス・テグマーク(翻訳: 水谷 淳)
出版社:紀伊國屋書店
分類:科学読み物、人工知能
出版日:2019/12/27
読みやすさ:☆☆☆(とても読みやすい)
理論物理学者でありながらAI研究も積極的に行っているマックス・テグマーク氏(マサチューセッツ工科大学教授)による一般向けの著書。人工知能(AI)の将来、特に(人間レベルの)汎用人工知能(AGI)が人類に与える影響について、社会の在り方と関連付けながら平易に解説している。
ほぼすべての科学者が、将来的にはAGIが誕生することを認めてはいるものの、それが近い将来なのか遠い将来なのか、またAGIの誕生が人類にとって脅威となるのか恩恵となるのかは意見が分かれるようだ。いずれにせよ、将来を受け身的に考えるのではなく、どのような未来を望み、そのために何をなすべきか考える必要があるという著者の主張は強く印象に残った。
最終的に何が起こるかに関しては、現在のところ、真剣に考えている思索家のあいだでも意見がまちまちだ。(中略)まるで答えがあらかじめ決まっているかのように、受け身的に「何が起こるのか」と問うのは間違いだ。(中略)そこで本当は、「何を起こすべきか?我々はどんな未来を望むのか?」と問いかけなければならない。(233頁)
なお、全体的にはとても読みやすいのだが、第6章の宇宙論に関連する部分は正直言ってかなりハードルが高い。内容を正しく理解できる人は宇宙論の研究者に限られるのでは?と感じた。